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                           (株)プロフィットジャパン

                           博士(医学)   菊 賀 信 雅

歩行習慣のある高齢者の特徴とは?

2022年11月に社会医学誌として歴史のある「公衆衛生雑誌第11号」に、『高齢者における運動行動の変容ステージ別の歩行時間の関連要因:JAGES2019横断研究』が掲載されました。

高齢者の中には運動行動に関心が低くても,健康の保持・増進に必要な歩行時間(1日30分以上)を満たしている者が存在します。それはどのような集団なのか? 運動行動の変容ステージ別に,1日30分以上の歩行を行っている高齢者の特性を明らかにすることを目的とした研究の発表でした。

帝京大大学院公衆衛生学研究科(東京)の金森悟講師【運動疫学】らの研究グループが、どんな人が1日30分以上歩いているかを、全国の高齢者1万8千人を対象に調査しました。運動に関心がなくても、1日30分以上歩いている人の特徴として、「看病や世話をしてあげる人がいる」,「友人とよく会っている」、「町内会や自治会に参加している」、「地域に助け合い・支えあいがあると感じている」、「外出する頻度が多い」、「テレビやネットでスボーツを観戦している」、「配偶者がいる」など、人とのつながりがある人に多いという特徴を明らかにしました。

歩行習慣者の負の関連

この中では、1日30分歩行と正の関連「読書の趣味がある」〔読書を趣味としている人は1日30分以上歩く人が有意に多い〕、とする一方で、「趣味が囲碁、将棋、麻雀」「運動スポーツを勧められた経験や運動スポーツのグループやイベント参加へのきっかけを紹介された経験があること」は、負の関連が認められたとしています。

このことは、すぐに、趣味が囲碁、将棋、麻雀の人は、「1日30分以上歩いていない」や「スポーツを勧められたことがある人は30分歩いていない」とは、ならない可能性があります〔因果の逆転の可能性〕

 

「運動嫌い」のやる気を促すキャッチコピー

また、運動が嫌いという人にとっては、「運動」という言葉そのものにアレルギーがあることも考えられるのであえて「身体活動・運動」という言葉を使わず、それ以外で、対象者の性別や年代に合わせた言葉を使ってのアプローチをすることでスムーズにお客様に伝わる言葉を選んで使うことも有効だと思います。

2020年に、「運動実践を推奨するキャッチコピーの効果検証」【竹中晃二, 三浦佳代 – 日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究報告集, 2020】の中で、『運動しようとする気持ちが起こるスローガン』についての研究の報告がありました。その中では、『運動しましょう』の後に追記する、人々を動機づけるための短い推奨文〔キャッチコピー、スローガン〕について、どのような言葉が人を運動させる気持ちにさせるかを調査しています。

それらの内容では、性別・年代別に反応する言葉が異なり、対象者に合わせて、「健康増進」、「姿勢改善」、「体型改善・ダイエット」、「アンチエージング」などの言葉を使い分けることでスムーズにフィットネスプログラムに参加を促すことも可能になると思われます。たとえば、想定している対象者に向けて、その人たちがやる気になる言葉として、『アンチエイジングプログラムをご一緒に!』、『ぐっすりと眠って疲労回復を』というキャッチコピーでプログラムをアピールすることが必要だとしています。

 

具体的な運動実施意図・動機づけ、やってみようを引き出すスローガンは、性別、年齢や、運動の好き嫌い、日常生活の忙しさなどによっても異なることが示されています。

表1は、全体と性別に、運動のやる気を引き出すスローガン(キャッチコピー)としての平均得点の高い順に10位までを表しています。これを見ると、「健康増進」は,全体、男女共最上位に位置し,つづいて「睡眠促進」と「姿勢改善」も上位に,しかし「疾病予防」と「活力強化」は男性にとっては上位ながら,女性では下位でした。女性が2番目にあげた「体型改善・ダイエット」の順位は理解できますが,「アンチエイジング」の位置は男女で順位が大きく異なっていました。女性の特徴として,健康や姿勢,睡眠への意識に加えて,容姿やアンチエイジングについて意識が高く,行動意図が高まっていることがわかります。

 

〔表1、運動実施意図・動機づけ、やってみようを引き出すスローガン:全体、性別〕

表1.      運動の動機づけ、やってみようを引き出すスローガン(平均得点の高い順)
全体 男性 女性
1 健康増進 健康増進 健康増進
2 姿勢改善 睡眠促進 体型改善・ダイエット
3 睡眠促進 疾病予防 姿勢改善
4 体型改善・ダイエット 姿勢改善 睡眠促進
5 楽しさ・快感 活力強化 アンチエイジング
6 疾病予防 楽しさ・快感 楽しさ・快感
7 アンチエイジング 体型改善・ダイエット リラクセーション
8 リラクセーション 階段利用 疾病予防
9 階段利用 筋肉・筋力強化 階段利用
10 活力強化 リラクセーション 筋肉・筋力強化

 

表2は、性別・年齢別に、運動のやる気を引き出すスローガン(キャッチコピー) を平均得点の高い順に10位までを表しています。これを見ると、

性別年齢別のスローガンについては、男性のいずれの年齢層においても「健康増進」が最上位に位置しました。「疾病予防」は,40-50歳代および60歳代で上位に位置するものの,20-30歳代では下位でした。「体型改善・ダイエット」および「リラクセーション」は,40-50歳代が他の年齢層と比べて上位に位置しました。

「障害予防・転倒予防」は,20-30歳代および40-50歳代で10番外に位置したが,60歳代で10位でした。

「ご褒美・景観」は,20-30歳代で上位に,40-50歳代で中位に,そして60歳代で10位外と順位が低くなっていました。

女性の年齢層別順位については.「姿勢改善」,「健康増進」,「楽しさ・快感」は,いずれの年齢層でも上位に位置し,しかし「体型・ダイエット」は20-30歳代の最上位から年齢層が上がるに従って順位が低下していく傾向が見られました。40-50歳代では,「アンチエイジング」が2位と上位に位置していました。「睡眠促進」や「リラクセーション」は年齢が上がるに従って低下していました。「ご褒美・景観」は,20-30歳代で9位,40-50歳代で11位,そして60歳代は21位と年齢とともに順位が低下しました。60歳代で他の年齢層よりも目立ったのは「障害予防・転倒予防」が7位と上位に挙げられていました。

〔表2、運動実施意図・動機づけ、やってみようを引き出すスローガン:性別年代別〕

順位 20-30歳代 40-50歳代 60歳代
男性 1 健康増進 健康増進 健康増進
2 姿勢改善 睡眠促進 疾病予防
3 睡眠促進 疾病予防 楽しさ・快感
4 楽しさ・快感 活力強化 階段利用
5 活力強化 体型改善・ダイエット 姿勢改善
6 ご褒美・景観 リラクセーション 活力強化
7 自己効力感 姿勢改善 睡眠促進
8 階段利用 楽しさ・快感 体型改善・ダイエット
9 疾病予防 筋肉・筋力強化 自己効力感
10 筋肉・筋力強化 ご褒美・景観 障害予防・転倒予防
11 人生観への関与 階段利用 筋肉・筋力強化
12 体型改善・ダイエット 自己実現のために アンチエイジング
女性 1 体型改善・ダイエット 姿勢改善 姿勢改善
2 姿勢改善 アンチエイジング 健康増進
3 睡眠促進 健康増進 疾病予防
4 健康増進 楽しさ・快感 階段利用
5 リラクセーション 体型改善・ダイエット 楽しさ・快感
6 アンチエイジング 疾病予防 筋肉・筋力強化
7 楽しさ・快感 睡眠促進 障害予防・転倒予防
8 摂取・消費エネルギーバランス 筋肉・筋力強化 アンチエイジング
9 ご褒美・景観 リラクセーション 睡眠促進
10 階段利用 階段利用 活力強化

 

表3は、運動をやってみようを引き出すスローガン(キャッチコピー)の中で、運動の好き嫌いによる違いや、性別による得点について示しています。

運動・スポーツの好き群では男女に差が見られないのに対して,嫌い群では,男性が女性に比べて有意に『意図・動機づけ』の平均値が低いという結果でした。この結果は,男性が女性と比べて,「健康増進」という用語に対して「やってみよう」という意図や動機づけが低いことを意味しています。そのため,運動が嫌いな男性にとって,運動を推奨される際に用いられる「健康増進」の謳い文句は必ずしも適していないことがわかります。

表3.  運動の動機づけ、やってみようを引き出すスローガン〔性別の運動が好きな人、嫌いな人〕(得点の高い順)
運動が好きな人  運動が嫌いな人 男性の運動が嫌いな人 女性の運動が嫌いな人
1 健康増進 姿勢改善 疾病予防 姿勢改善
2 姿勢改善 健康増進 睡眠促進 体型改善・ダイエット
3 睡眠促進 体型改善・ダイエット 楽しさ・快感 健康増進
4 楽しさ・快感 睡眠促進 健康増進 アンチエイジング
5 体型改善・ダイエット 疾病予防 姿勢改善 疾病予防
6 疾病予防 アンチエイジング メンタルヘルス 睡眠促進
7 活力強化 楽しさ・快感 ご褒美・景観 楽しさ・快感
8 階段利用 リラクセーション アンチエイジング 階段利用
9 筋肉・筋力強化 ご褒美・景観 活力強化 リラクセーション
10 リラクセーション 階段利用 障害予防・転倒予防 障害予防・転倒予防

 

運動が嫌いな女性では,どのカテゴリーにおいても平均値が低いものの,順位として最上位にきたカテゴリーは女性の中高年と同様に「姿勢改善」でした。さらに,「体型改善・ダイエット」,「健康増進」,「睡眠促進」,「疾病予防」などが上位に並びました。表にはありませんが、興味あることに,今まで分析してきた特徴と異なった結果として,「勧誘」というカテゴリーが『受け入れやすさ』や『適合性』の上位に見られている点です.具体的に,キャッチコピーの内容としては,「ちょっと来てみて顔出して,あなたが来るのを待ってるから」,「いっしょにやろう,できるって」,「さあ,からだを変えていこう」の3項目ですが,運動・スポーツに嫌悪感を抱いている女性にとって,これら言葉による誘いかけが反応性を引き出すのに有効であることがわかりました。

運動・スポーツが「とても」嫌いな男性についても,女性の場合と同様に「疾病予防」や「睡眠促進」は,どの評価においても上位にきているものの,「メンタルヘルス」や「楽しさ快感」も上位に含まれていました.

よって、運動・スポーツが「とくに」嫌いな男性には,「疾病予防」や「睡眠促進」に加え,運動実施における

「メンタルヘルス」への貢献を訴えながら,負担感を抑制するような活動内容を示すことが彼らの反応性を高めることができると考えられました。

 

以上のように、対象となる性別、年代別、運動が好きな人、嫌いな人によって、反応するスローガン(キャッチコピー)が異なることが明らかになりました。

これらのことを十分に承知したうえで、どのような人に参加してほしいのか。を再度意識してマーケティング、広告、営業活動にキャッチコピーを盛り込むことが、重要であることがわかりました。

 

 

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