お知らせ

昨年10月31日~11月2日にかけて、第82回日本公衆衛生学会総会が、茨城県のつくば国際会議場で開催されました。

3500 人以上の研究者が参加し、50超のシンポジウム、1400を超える演題が発表されました。

テーマは“実践と研究のシナジーが織りなす保健医療介護サービスの進化と調和”と称して

様々な演題の研究成果や教育講演が行われました。

今回も、フィットネスクラブでもとても実行可能性の高いメッセージとして役立つ発表がありましたので、紹介させていただきます。

認知症と身体活動との関連について、神奈川県立保健福祉大学の根本裕太先生が発表され、

最優秀口演賞を受賞されました。

発表のタイトルは、「地域在住高齢者における身体活動と認知症発症との関連:

多時点観察データを用いた検討」です。

先行研究でも、身体活動と認知症の関連の報告はありましたが、

従来の研究では、1時点の身体活動量と、その後の認知症発症との関連を検討しており、

身体活動の認知症予防効果を過小評価している可能性が懸念されました。

そのため、本研究では多時点の観察データを用いて、

時間とともに変化する身体活動による認知症発症への効果を検討しております。

本研究は2016年から調査を開始し、2018年、2019年、2021年と多時点での調査を行い、

その4時点の調査データと要介護認定情報を統合して解析を行いました。

統計解析では、従来の手法(1時点の身体活動と認知症発症)としてCox比例ハザードモデルを実施し、

身体活動量の変化を考慮した分析としてParametric g-formulaという分析を行いました。

その結果、従来手法では認知症予防のために「1日45分の身体活動(≥1200メッツ・分/週)が必要」

とされていたところを、「1日5~10分程度の身体活動(100-599メッツ・分/週)でも

認知症リスクを20%低減する」ことを明らかにしました。

本研究は、身体活動量の経年変化を考慮した最新の統計手法を用いて、

より短い時間の身体活動でも認知症のリスクを低減できることを示したという点で画期的なものでした。

 

上のグラフは、1時点の身体活動と認知症との関連では、ハザード比が、1200メッツ・分/週以上で有意に認知症発症リスクが低下している。

1200メッツ・分/週は、3メッツの運動だと400分となり、1日あたりは約60分となる。

下のグラフの経年変化を考慮した身体活動量と認知症発症との関連では、100メッツ・分/週でも、ハザード比が0.80と有意に認知症発症リスクが低いため、少ない運動量でもリスクが低減される。

100メッツ・分/週は、3メッツの運動だと週に33分となり、1日あたりは約5分となる。

もちろん、より多くの身体活動では、1200メッツ・分/週では、ハザード比は、0.51となり、運動していない人と比べて約半分になる。

 

現在、高齢者の介護予防マニュアルは第四版が令和4年3月に「エビデンスを踏まえた介護予防マニュアル改訂委員会」から出されており、

その中には第6章として認知機能低下予防マニュアルが10ページにわたって記載されています。

後半の84~89ページに科学的根拠がある取り組みとして運動やコグニサイズあるいは、

それらの複合プログラムがでています。その内容は、以下の通りです。

プログラムの実施期間・回数

実施時間:1回60分程度

実施頻度:週2回程度

実施期間:12週程度

その中では、上記の通り、「運動が認知機能に及ぼす影響を検討した50歳以上の成人を対象とした先行報告では、

実施時間は45~60分が効果的である」、実施頻度は週5~7回の頻度を目指して可能な限り高頻度で実施することが望ましい。

認知機能向上を目指した運動介入の先行研究における実施頻度は、週1回から週4回であり、週2回または3回の研究が多かった。

実施期間は4~12週の短期間、13~26週の中期間、26週より長期間のいずれにおいても効果的であり、

運動強度については中等度以上の強度が推奨されている。

また運動内容は、一般的な運動プログラムとして

ストレッチ・筋力トレーニング・バランス運動・有酸素運動の例が挙げられています。

・準備運動(計5分)

ストレッチ:ストレッチを含む軽負荷の運動を行う。呼吸器や循環器疾患、フレイルを伴う場合はより時間を

かけて行う。

・筋力トレーニング(計10分):下肢を中心に行う。バルサルバ効果を避けるため実施中は呼吸を止めないよ

う気をつける。軽負荷・低頻度から開始し「ややきつい」と感じる程度の負荷量を目安とする。

・バランス運動(計10分):立位、座位にて行う。レクリエーション運動を取り入れても良い。

・有酸素運動(計30分):軽い負荷から開始し、「ややきつい」と感じる程度の負荷量を目安とする。可能であ

れば心拍数をモニタリングしながら行う。運動習慣が乏しい場合はまず10分間程度から開始し、漸増する。

連続で行わず途中で休憩を挟んでも良い。

 

コグニサイズ

認知機能低下予防運動プログラムの代表的な例として、

国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」について紹介されています。

コグニサイズは認知症予防を目的とした取組の総称であり、

「コグニ」の部分はcognition(コグニション=認知)、「

サイズ」exercise(エクササイズ=運動)を指し、それらを掛け合わせた造語である。

①         スキップしながら手拍子

②         ウォーキングしながら計算

③         椅子に座って足踏み・腕振りをしながら3の倍数で手拍子

④         ステップ台の昇降運動をしながら語想起

⑤         コグニラダー

 

これらのことは、すでにフィットネスクラブで実施しているところもあると思いますが、

改めて、より多くの高齢者に参加を促すには、身体活動として5分からでも効果があること、

又、介護施設に任せることなくフィットネスクラブが主たる目的達成の場であることを改めて認識し、

積極的に取り組むことが必要と思われます。

 

参考資料

Nemoto Y, et al. Do the impacts of mentally active and passive sedentary behavior on dementia incidence differ by physical activity level? A 5-year longitudinal study. Journal of Epidemiology, 2023.

 

厚生労働省 介護予防マニュアル 第4版

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25277.html

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000931684.pdf

 

概要版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000931652.pdf

 

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