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                              (株)プロフィットジャパン

                              博士(医学) 菊 賀 信 雅

健康日本21(第3次)がスタートし、厚生労働省から、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が、発表されました。高血圧や糖尿病などの疾病別運動プログラムを作成し、それを実践する場所としてトレッドミルやエルゴメーター、ウェイトマシーンを利用したトレーニングプログラムが示され、それらを備えたフィットネスクラブでの利用を想定しています。

高血圧の人を対象とした運動プログラムにおいて、高血圧を改善するには、有酸素運動や筋力トレーニングを行うことが有効で、エビデンスに基づいて最高血圧が3~5mmHg、最低血圧で2~3mmHg低下することが期待できるとされています。そのためのプログラムとして、有酸素運動を最高心拍数の50~60%の強度で30分を週3~5回、筋力トレーニングを軽い負荷で10~15回*1~2セットを週に2~3回実施し、モデルとして運動時間を60分~90分とることが推奨されています。

高血圧は日本では死亡リスクの割合は、喫煙に次ぐ第二位で非常に死亡リスクの高い疾病です(Ikeda.et.al.2012)。日本人は50歳(女性60歳)を超えると2人に1人以上が高血圧になりますので、積極的に取り組んでいくべき課題です。(高血圧治療ガイドライン2019)ただ、普段から運動している人の割合は、20歳~64歳の男性で23.5 %、女性16.9 %、65歳以上男性41.9 %、女性33.9 %にすぎません。(身体活動・運動ガイド2023)

中高年の普段から運動していない人に、いきなり有酸素運動や筋力トレーニングの実施は、とてもハードルが高いと言わざるをえません。(Harada K et al. 2008)

 

そんな中、2023年7月に、日本の研究チームが明らかにした論文が、英科学誌「Nature」〔『Nature Biomedical Engineering』〕に掲載されました。

〔論文タイトル:Interstitial-fluid shear stresses induced by vertically oscillating head motion lower blood pressure in hypertensive rats and humans(頭部上下動で生じる脳の間質液流動による力学的刺激が高血圧を改善する)〕〔 S Murase, Yasuhiro Sawada.et.al Nature BiomedicalEngineering,2023nature.com

運動が高血圧を改善するメカニズムの解明についてです。

以下、上記の論文を解説しているプレスリリースより、引用させていただきました。

軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部(脳)に伝わる適度な物理的衝撃により、脳内の組織液(間質液)が動きます。これにより脳内の血圧調節中枢の細胞に力学的な刺激が加わり、血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下し、血圧低下が生じることが、高血圧ラットを用いた実験で分かりました。 さらに、この頭部への物理的衝撃を高血圧者(ヒト)に適用すると、高血圧が改善することを世界で初めて明らかにしました。この結果は、適度な運動による健康維持・増進効果において、運動時に頭部に加わる適度な衝撃が重要である可能性を示すものです。

研究成果のポイント

<ラットでの実験結果>

・高血圧を自然発症するラット(高血圧ラット)において、ヒトの軽いジョギング程度に相当する運動(分速20メートルの走行)を続けると、高血圧改善効果、交感神経活性抑制効果があることが報告されています(岸ら、Clinical and Experimental Hypertension、2012)。また、その分速20メートルで走行中のラットでは、前足が着地する毎に頭部に約1 Gの衝撃が加わることを本研究グループは明らかにしていました(柳ら、iScience、2020)。今回、麻酔した高血圧ラットの頭部に1 Gの衝撃がリズミカルに加わるように、毎秒2回頭部を上下動させる(受動的頭部上下運動)〔2Hz、5mm〕と、脳内の組織液(間質液)が流れ、細胞に力学的刺激(流体せん断力)が加わり、これを1日30分間・2~3週間以上続けると、高血圧改善(血圧低下)効果があることが分かりました。

<ヒトでの検証結果>

・ヒトにおける適度な運動の典型である、軽いジョギングあるいは速歩き(時速7キロメートル)でも、足の着地時に頭部に1 Gの衝撃が上下方向に加わることが分かりました。

・座面が上下動することで、1 Gの上下方向の衝撃がヒトの頭部に加わるように設計された椅子(図1右)に1日30分間・1週間に3日・1ヶ月間(4.5週間)搭乗すると、高血圧改善効果、交感神経活性抑制効果が認められた(図2)。 1週間に3日・1ヶ月間の上下動椅子搭乗期間の終了後も、約1ヶ月間は高血圧改善効果が持続しました。なお、過度の血圧低下(低血圧症状)を含め、この座面上下動椅子搭乗による明らかな有害事象は認められませんでした。

高血圧はWorld’s biggest killerとも言われ、世界における最大の死亡危険因子となっています。

適度な運動が高血圧の予防・治療に有効であることは分かっていましたが、運動が高血圧を改善する仕組みはよく分かっていませんでした。 本研究の意義は、運動の高血圧改善効果の背景となるメカニズムの発見です。これまでに、「適度な運動」の効果は、高血圧改善に限らず、認知症、うつ病をはじめ多くの脳機能関連疾患の症状・障害の軽減・改善が、統計的には証明されています。そこで、運動時に生じる脳内組織液流動の重要性は、それらの疾患にも当てはまることが考えられます。さらには、どんな運動を、1日どのくらい、1週間に何日行えば、健康維持になるのかといった健康寿命延伸へ向けた重要な問題の解決にもつながるものです。今回の研究の成果からは、運動により頭部に適度な物理的刺激を与えることが、脳、さらには身体の健康維持に役にたつ可能性が考えられます。

適度な運動の正体(本質)に関する考察・仮説

有酸素運動には、ランニング(ジョギング)、ウォーキングなど、足が接地(着地)した瞬間に地面からの反力を受け、身体に物理的衝撃が加わるものが多い。本研究では、健康維持・促進法としての運動の正体(本質)の少なくとも一部が、身体への物理的衝撃及びそれにより生じる間質液流動促進であるとする仮説を検証されました。本研究では、水泳・水中歩行・自転車(エアロバイクを含む)漕ぎなど、身体への物理的衝撃があまり想定されてこなかった運動でも、頭部に0.5 G程度の加速度が生じることを確認されました。また、ラットを用いた実験で、0.5 Gの頭部への衝撃でも1 Gの衝撃とほぼ同程度の高血圧改善効果を認めたことも示されています。

以上、プレスリリースより引用。

別ブログで、振動療法による効果や方法について記載させていただきましたが、きちんと定量化された振動機器で、0.5~1Gの垂直振動を30分、週に3回、1か月実施することが可能であれば、高血圧の改善する可能性があるということを広く周知して、普段からあまり継続的な運動を行っていないひとも、フィットネス施設に来館いただきプログラムが提供できると、未顧客マーケティングにもつながるのではと期待しています。

普段から運動しない人にとっては、運動は苦手であり、「つらいこと」、「しんどいこと」、「疲れる」などのマイナスイメージが先行し、積極的に取り組もうという気にならないかもしれません。(Forkan et al.2006)

普段から運動しない人に対しては、まずは、リラックスして疲労をとるための受動的振動療法を進めることで、疲れている身体をほぐし、「気持ちいい」、「楽になる」、「楽しい」、「これなら続けられる」という、安心感を感じていただき、続けたいと思っていただけるアイテムであることが求められます。(Hosoi T et al.2011)

エクササイズとして、続けられる自信(セルフエフィカシー)を付けてあげることで、フィットネスの入口に立つことができ、振動療法から少しづつ、有酸素運動や筋トレにつなげていけるプログラムやシステムが不可欠であると感じます。(C Gjestvang, 2021)

 

 

 

0.5~1Gの上下方向(垂直)の振動が人の頭部に加わるように設計されたソファー〔Body Green 社製〕

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