(株)プロフィットジャパン
博士(医学) 菊 賀 信 雅
令和6年4月に 厚生労働省は 健康日本21(第3次)をスタートし 健康寿命延伸を目標に掲げて『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』が策定されました。フィットネスクラブは健康寿命延伸産業として位置づけられており、今後はフィットネスクラブの機器を使用して運動するということが推奨されています。
しかし日本におけるフィットネスクラブの会員数は433万人であり総人口に対する加入率は3.45%にとどまっています。〔IHRSA2021〕これはアメリカやドイツ、イギリスなどの先進国と比べて、著しく低い値となっています。また日本は世界有数の長寿国で、平均寿命は女性が世界一番男性が2番ですが、平均寿命と健康寿命の間には男性で9年、女性で12年差があります。 またコロナ以降では運動不足が非常に顕在化しており、コロナ時では 世界で一番座ってる時間が長いことが日本の実情だということが報告されています。そんな中で、前述の『身体活動・運動ガイド』では「フィットネス」という言葉や「筋力トレーニング」という言葉が初めて使用され フィットネスクラブで計画的、定期的に実施することを意識して運動を定義しています。疾病症状別の運動プログラムが厚生労働省から示され、そのリーフレットの中にはフィットネスクラブの機器である トレッドミルやエルゴメーター ウェイトマシンを使用してプログラムを行うことも推奨しています。その「身体活動・運動ガイド」の中には普段から継続して運動している人の割合は20~64歳での男性で23.5% 女性で16.9% 平均で20%程度と報告されています。ということは一般の人の8割は、継続的な運動していないということになります。フィットネスクラブでは今現在も、集客に苦労している総合フィットネスクラブが多いようにお見受けします。他方、行政では上記の通り積極的にフィットネスクラブを利用するための施策やガイドラインが出されてきていますので、今国民が継続的に運動するためには フィットネスクラブが最適と考えます。しかし 現状を見るとフィットネスクラブに通っている方は非常に健康な方が多く、その方がさらに健康度を高めるためのクラブとなっている場合が多いのではないでしょうか?
フィットネスクラブに通っていない8割の方こそ、何らかの身体の不調を訴え病院通いをする状況にあり、健康な状態からは程遠く、体が弱り、フレイルの状態になっている可能性があります。
フレイルについて
人は年齢を重ねていくと健康な状態から体が少しずつ弱っていき、筋力や活動が低下している状態「フレイル」〔日本語では 『虚弱』と言います〕に、に陥ります。でそのフレイルの状態から、その後要介護となります。一度 介護状態になるとフレイルや健康まで戻ることは不可能となるため、なんとしても フレイルでとどまる方法が不可欠となり その事業をする事業者が圧倒的に現在不足していると考えられています。一般の方の健康づくりに関する意識は非常に高まっているのが現状だと思われますが、運動はどちらかというと苦手、でも健康は不安だという人に対して、気軽に健康維持をしてもらうためのフィットネスが必要だと思われます。実際に腰や膝などの体の痛み、また体調不良による不定愁訴〔体がだるいとか 朝起きた時、疲労感がある〕を訴えるなどの症状は 高齢になるとかなりの方がその症状で悩んでおられると思いますが、その方がフィットネスクラブに足が向くかというと、私にはちょっとフィットネスクラブは敷居が高いわと思っている方がまだまだ多いように思われます。従ってもう少し気楽に健康になりたいという方に対するリラクゼーションとか軽運動等のプログラムが必要となります。実際にFIAで調査された余暇に求める過ごし方では、「余暇の時間に何をして過ごしますか」又は「過ごしたいですか」という問いに対して、「リラックスして気楽にすること」や「のんびりして休憩すること」、「自分の好きな活動すること」は、85%から90%ぐらいの方がそういう余暇を求めています。他方 健康に関する内容としては「健康維持のための活動すること」は、60%ぐらいの方が 余暇の時間に行いたいと答えています。そのことと フィットネスクラブの経験の有無との関連を調べたところ「リラックスして気楽にすること」ということを求めるフィットネスの経験がある人とない人の差は1.3倍 フィットネスの経験がある人が多かったですがこれは 統計的に有意な差ではありませんでした(P=0.255)。それに対して 「健康維持のための活動すること」は フィットネスの経験のあるなしでフィットネスの経験がある人が2.18倍多く、これは 統計的に有意な差でした(P<0.01)〔kikuga.et.al.2017〕。よってフィットネスクラブの経験がある人は健康維持のための活動するということの意識はありますが、フィットネスクラブでリラックスして気楽にしたいとかのんびりしたいというようなことをフィットネスクラブでは叶えられると思っていない人が非常に多いのではないかと思われます。従って余暇に求める過ごし方のアンケートでは、リラックスしたいと思ってる人が90%近くいるのに現状のフィットネスではリラックスが提供できていない可能性が高い、よって、のんびりしたりするスペースが求められているというふうに思われます。手軽でどなたでもができるリラクゼーションプログラムからフィットネスプログラムへのアプローチをすることやお客様同士のコミュニケーションアリーナ(集いの場)を意識してプログラムを提供することで今最も必要とされてるソーシャルサポートとか ソーシャルキャピタルについての人のつながりや絆づくりも大切だと思われます。
通常大人の人は仕事をしています。 会社に勤めている人、家で家事や育児・介護をしている人など様々な仕事を日々行っています。仕事は通常、行動 (action)であり、体を動かすか頭を動かすかは別として疲労を伴います。仕事が終わると休養(rest)となり、疲れた体を休めるための方法を取ります。20代から30代の若い人はこの時間を積極的休養(active rest)〔積極的に体を動かし 汗を流し リフレッシュすること〕に使うことが多いかもしれません。しかし 40歳代より上の方は大半が消極的休養(passive rest)〔体をリラックスさせて静かに疲れが消えるのを待つ〕に時間を使い、体調を整え次の行動(仕事)に備えます。この場合の積極的休養はフィットネスクラブで言えば エクササイズとかフィットネス、トレーニングなどの積極的に体を動かす運動・スポーツ全般〔例えばゴルフとかテニスとかは ピラティス アクアビクス スイミング〕などを指します。それに対して消極的休養はコンディショニング〔体調調整又は疲労回復〕という範疇に入り、その内容としては フィットネスクラブでは 例えば ストレッチングやヨガ〔ホットヨガ〕、マッサージ また 温浴施設のお風呂やジャグジーなどもその範囲に入ります。それらの内容では、リラクゼーション〔体を楽にして癒す〕、体そのものを癒す場合と精神的な部分のメンタルを癒す場合もありますが そういうことも 消極的休養には含まれます。さらにエステとか アロマセラピー等もその中に含まれます。従って フィットネスクラブではただ単に運動する場というよりは 体の調子を整える場所またはリラックスして精神的なストレスの解消 または 肉体的なストレスの解消を行うためのプログラムを提供していくことが非常に大切になります。
一般の方々の健康行動はいくつかのパターンに分かれます。一番具合の悪い時には当然メディカルアプローチとしての病院へ行ったり接骨院で診療を受けて薬局行って薬をもらったりします。実際にメディカルアプローチは我々フィットネスクラブ業とは直接、事業はかぶっておりませんが、かなりの方は医療機関へ継続的に通っていらっしゃると思われます。また薬局へ行って塗り薬・貼り薬または健康食品と言われるものを買って疲労回復のためのドリンクとかいろいろなサプリメントを買って継続的に飲むというような行動をなさる方も多くいらっしゃいます。今申し上げた メディカルアプローチを フェイズ1、薬局での行動で健康食品を買ってそれを継続的に飲む、スパ施設へ行ったりお風呂へ入ったりというようなスーパー銭湯みたいなところに行く方もこのフェイズ2の範囲に含まれます。お金を払ってマッサージに行ったり、もう少し積極的に動かれる方はマッサージとかカイロ・整体・鍼灸に通われて、マッサージ器をご購入になって自宅でリラックスするというようなことをなさられる方もいらっしゃるかもしれません。この方々はフェイズ3です。
もう少し自分で意識して積極的に体を動かすことの意識がある方は、ラジオ体操を公園で行ったり、犬の散歩、それから自分で いろんな健康関連機器を購入してステップを行えるものや自転車を漕ぐようなものを自宅で使って運動される方または筋力トレーニングと言われる筋力作りやストレッチみたいなものを行われる方もいらっしゃるかと思いますで これらのことをフェイズ4と位置づけます。でさらにフェイズ5は トレーニング スイミング と言われる内容のもの 積極的に体を動かすようなものを行うことで 健康づくりを行っていらっしゃる フィットネスクラブへ通われる方はこのフェイズ5の方になります。今申し上げた フェーズ1 から フェーズ5までの中でフィットネスクラブで今現在 対象となっているのは フェイズ4 やフェイズ5が対象となると思われますが 実際には フェイズ3の方とかフェーズ2の方も フィットネスクラブには通っていらっしゃいます。さらに言うと フェーズ1のメディカル アプローチをされている方でも 医療機関で運動を推奨されている方は フィットネスクラブに帰っていらっしゃるということがあるかと思います。従って 健康行動は全て1から5までフィットネスクラブに関連していることが分かります。そこで 非常に大切なことは今 申し上げた1 フェーズ1 から フェーズ5までは全て 目的がかなりの部分 共通しているということがわかります。例えば 医療機関で貼り薬とか飲み薬をもらう または 温熱療法を受けるというようなことは血行を促進するための方法論として行われています。薬局へ行って塗り薬 貼り薬をもらったり温浴施設へ行って温泉に入るスーパー銭湯に入るというようなことも血行促進を目的として行われています。もちろん マッサージ、カイロ、整体、鍼灸へ通われる方、これも疲労回復とか筋肉をほぐすというような目的で血行促進を行う内容を提供されています。 ストレッチ、筋力作り、ラジオ体操も血行促進、もちろんトレーニング、スイミングやジョギングも血行促進です。ということは健康づくりの基本は、血行促進で自ら血行を良くすることを実践するということが健康行動につながっているという風に考えられます。従ってフェイズ123の内容は必ずしも 運動とは言えないものであり、 運動である必要はないと考えます。先ほどの健康づくりから、フレイル、介護の一連の流れで健康寿命を延伸するということを目的に考えると、なるだけフレールから介護にならないためには、フェイズ1~3の方もフィットネスクラブで対応ができるようにするプログラムが必要です。
〔作図、N.Kikuga〕
フィットネス施設の施設 アイテムや提供するサービスや内容については ただ単に運動をする施設という位置づけではなく 血液循環を促進するための色々なこと それは体の外からの刺激 および中の刺激も含めてサービスはかなり 幅広く 多様に提供することが可能です 例えば体は「温める」という方法 それはもちろん 先ほどの 温浴施設 というようなこともあるかもしれませんが 体は温めるものについては ホットパック 的なものや 最近だと血流促進のための機器が多数出てますので そういうようなものも対象になってまいります さらに中から血行を良くするとなると 例えば水素を吸引する または 酸素高濃度の酸素を吸引するというようなことでも血行促進とか体を温める目的を可能にしています。でさらに体は温めたら筋肉をほぐす という方法論が必要になります 筋肉をほぐす というのは マッサージ的な部分もあるかとも思うんですけども 実際には 「ほぐす」っていうのは 体をさすったり揉んだり 叩いたりというような、ほぐす テクニック もいろいろありますし、ただマッサージチェア みたいなものだけ置くというよりはそういうようなことをプログラム化することで提供する内容が幅広くなっていきます。「ほぐす」から「伸ばす」、「伸ばす」は ストレッチということですけども ストレッチは最近 ストレッチ機器も多数出てきていますし、これは私どものも取り組んでいますが パッシブストレッチということで 動的なストレッチを他動運動として行うというようなことで肩を伸ばしたり 腰を伸ばしたり足首を上げたり下げたりするようなことを他動的に電動で動かしてあげる。本人が直接 自分の体を動かすために 軽運動ということで 負荷をかけずにただ腕を持ち上げる、足を持ち上げる、体を後ろへそらす、体を前へ、倒すというような自重で行う体の身体活動と言われるものも有効です。特に高齢になってくると廃用性萎縮というものが進みますので、膝や足首、手首・肘・肩がこわばってきますで、そのこわばりを起こさないためにも 継続的に軽運動することで歩いたり階段を上ったり降りたりしゃがんだり体をかがめたりということが無理なくできることが、フレイルにならない または、フレイルから介護にならないための非常に大事なことになります。 もちろん、運動としてのフィットネス、筋力トレーニングや有酸素運動、それから、ストレッチング、ダイナミックストレッチング的なことも含めてもちろん必要になります。先ほど申し上げたように 血行を促進するということが目的になりますので血行を促進する体内の血行とか 筋肉痛の血流をアップすると代謝がアップして コリア むくみが取れて 結果的には疲労回復 健康度が上がってダイエットにもつながります そういったようなプログラムをフィットネスクラブで提供することでよりたくさんの方の参加を促すと 特に運動が嫌いな方とかあんまり 運動を継続的にやってない方には 今申し上げたような方法から、プログラムに入っていただくことが非常に重要です。
2025.5、7月末に発刊されたフィットネスビジネス5・6、7・8月号では、アメリカのフィットネスクラブの最新事情として、参加率が世界一となり、出席率が約10%伸びた理由として、「リカバリー&コンディショニング」プログラムが、ほとんどのクラブで導入が進んていると報じています。
アメリカでの睡眠不足からの睡眠障害やストレス過多の社会、肥満者へのサポートという事情から増えているとしていますが、日本でも同様な状況が多々あるのではと思います。
よって、今後のフィットネス施設では、上記のようなことを踏まえて、参加率をあげていくような取り組みが不可欠ではないかとこのところ特に思います。