研究・業界情報

『Evidence Based Fitness 先行研究から得られるもの』
(株)プロフィットジャパン 菊賀信雅


以前、本誌の91.92号で、昨年発表された、ヨーロッパの2つのフィットネスに関する論文を紹介させていただきました。その中の以下の論文「The Effects of Two Self-Regulation Interventions to Increase Self-Efficacy and Group Exercise Behavior in Fitness Clubs」(フィットネスクラブでの自己効力感とグループ運動行動を増やすための2つ自己規制のための介入研究)【Jan Middelkamp et al,Journal of Sports Science and Medicine (2016) 15, 358-364〔IF=1.6〕】

については、フィットネスクラブにおけるコーチングの効果について書かれており、グラフ①にあるように、

フィットネス施設の利用およびスタジオプログラムの提供を行う群と、施設提供と個人ごとの「目的」、「利用頻度」を聞き出してコーチングを行う群とに分けてドロップアウトの割合を調べた調査で、3ヶ月間で、30%以上退会率が異なるということが明らかになりました。

グラフ①

 

このことは、会員のドロップアウトを減らすには、ただ、グループエクササイズを提供するのではなく、個別の目標や来館頻度等のコーチング(カウンセリング)が、重要であるということを示しているのかもしれません。

日本でも、スタジオやジムでグループエクササイズが、盛んにおこなわれており、いろいろなプログラムが提供されています。ただ、あくまでも、場所の提供、プログラムの提供であり、個人がどの程度、目標に近づいているのかや利用頻度についての具体的なアドバイスが行われていないのが現状です。

また、

国内外の先行研究を確認すると、表のような1988年以降、フィットネスクラブの利用に関する研究が行われ、論文として発表されており、非常に興味深い内容が、研究されています。

表1

 

たとえば、「身体活動や運動を始めたにも関わらず、3~6か月後には、約半分の人が、辞める。」〔Dishman(1988)〕〔(Berger, Pargman & Weinberg, 2002),〕

という海外の論文や、日本の論文でも、「フィットネスクラブ会員は、毎月4%が退会し、1年以内に50%が入れ替わる。」[森 一格 (1989)]が、出ています。フィットネスは続けて行うことで、効果が期待できるものですが、なかなか続かないことが、1980年後半には明らかになっており、現在でも、その傾向がある〔Jan Middelkamp (2016)〕のではないかと思います。

また、「新しい顧客を獲得するのは、現在の顧客を引き留めておくことよりも、6倍費用がかかる。」〔三宅基子 (1990)〕や「会員数を増やすには、新しい顧客を獲得していくことよりも、継続に関する意図の向上や一人当たりの利用頻度をいかに高めるかといった参加頻度の向上が不可欠である。」〔富山浩三他(1997)〕は、新規で会員を集めるのがいかに大変かを表しているとともに、いろいろなプログラムを充実させて定期的にお客様を飽きさせないための継続できるプログラムを提供し、既存の会員を個別にきめ細かくフォローすれば、新規入会が少なくても、会員数を維持できることが推測されます。

 

また、「会員の希望利用回数は、9.50回/月だったが、実際には、最初の2ヶ月は、5.46回/月であり、その後6ヶ月で4.32回/月に低下〔DellaVigna& Malmendier(2006)〕」

は、とても重要な情報で、お客様の利用に関する意識と実際に利用したときの利用回数がかなり異なることを示しています。現場でも、お客様に希望利用頻度をお聞きすると「私、暇だから毎日でも来られる」とか、「週に3回は来たいと思います」という答えが返ってきます。

でも、日本のフィットネスクラブでは、実際には頑張ってきていただいていても、週に2回程度で、会員一人当たりの平均を取ると、週に2回を超えるクラブはほとんどありません。

入会するときのお客様の意識は、月間8,000円~10,000円も払うのだから、週に2~3回は行きたいと思っていて、1回あたりの利用料は800~1,000円ぐらいだと無意識に計算し、フィットネスクラブに通い始めます。確かに、最初の1~3か月は、目新しさもあり、モチベーションも高いので、自分の考えているようなスケジュールで利用されますが、その後4~6か月経つと慣れてきて、様子が分かったのもあり、ほかの用事(季節ごとのイベント〔学校の行事やクリスマスパーティ〕等)も入ってくるため、フィットネスに割ける時間が少なくなり、だんだんフィットネスに対するモチベーションが低下するのではないかと思います。6か月後には、週1回程度の利用になり1回あたりは2,000円~2,500円となり、これだと元が取れないからやめようという意識が働きます。また、長期来館していない会員の感覚は、そんなに長い間クラブに行っていないという意識が無く、〔先月ぐらいには利用しているという錯覚しているが、実際は6か月以上未来館〕また暇ができたら通うという気持ちでいるので、会費を払い続けている人もいます。

 

最近の論文で、海外の大手のフィットネスチェーン〔ヨーロッパで最大のフィットネスクラブチェーンのBasicFitクラブとHealthCityのクラブの元メンバーのデータを用いて、研究〕では、退会率、退会までの期間、利用回数では、退会率45.2%、退会までの平均期間は、BasicFitでは475日、 HealthCityでは646日で、最初の1か月の来場平均は3.23回と5.28回とのことで、退会日と最後の来場日までの期間は、BasicFitでは、97.8日、HealthCityでは、102.7日。

そのうち、24か月連続定期的(月4回以上)利用者、2.3%   6ヶ月間の定期的な利用者10%

丸一ヶ月クラブ利用なし⇒その後再度利用 49%        24ヶ月間利用なし    19.5%

出席について有意な正の相関が6か月と12ヶ月(r=.61)、   12か月と24ヶ月(r=.45)          〔Jan Middelkamp (2016)〕

 

退会者の年間退会率45.2%は、上記の1年で半分近く退会するという先行研究とほぼ同様の結果であり、退会している会員の平均在籍年月は、1年3か月から、1年9ヶ月でした。利用回数は、1~2回/月であり、これも、先行研究と同じような内容です。

元会員の最後の利用日から退会するまで平均で約100日ということは、平均的なメンバーは月間の利用回数0回が、3か月続くと、退会するということであり、それまでの間で、なるだけ早く、何らかな対応が必要不可欠だということです。

また、退会者のうち、約20%は、2年間全く利用がないのに、会費だけ払い続けている〔知らないうちに引き落とされている?〕という結果は、かなりインパクトのあるものです。

結局、24か月連続して定期的に利用している(月4回以上利用)人は、2.3%しかいなかったということですので、いかに継続して通うのが難しいということが分かります。ただ、6か月利用していただいた会員は、12か月続いて利用されている方との相関高いので、続く可能性が高く、12か月も同様に24か月との相関がありますので、まずは何としても6か月続けていただく努力が必要だということです。

このようなことは、何となく感覚ではわかっている部分はありますが、実際にエビデンス(科学的根拠、論文等の査読〔チェックを受けて正当と認められたもの〕済みの著作物)で確認できるとより説得力もあり、またこのようなデータが蓄積されることが、重要だと思います。

現代は、情報が氾濫しており、特にテレビ、ラジオや雑誌などのマスコミで取り上げられるといかにも正しい情報であるかのように錯覚されますが、実際には、論文やきちんとした統計分析に基づいててチェックを受けていない情報のまま報道されているものが多く、インパクトはあるが根拠が乏しい間違った情報に踊らされてしまいがちです。特に、フィットネスクラブで扱う情報は、お客様の身体のことについてのことも多く、直接に健康に影響する内容も含まれると思います。その情報が正しいかどうかを見極める能力も、クラブ側や、各トレーナーにも求められています。

 

また各フィットネスクラブでは、新規会員を集めることや利用者の継続利用を促すプログラムをいろいろ工夫してはいるが、エビデンスに基づいた効果的な方法が確立できていないのが現状です。

現場では、すぐに成果の上がる広告の工夫や営業活動には労力をかけるものの、上記のようなデータを現場で調査することに労力をかける風土は醸成されていません。

この背景にはエビデンスの重要性やエビデンスを生み出すための疫学的研究手法を理解している経営者、運営者が現場にほとんどいないことが一因であると考えられます。私は、フィットネスクラブを経営しながら、PJフィットネス研究所を設立して、フィットネスに関する様々な研究を実施し、エビデンスを発信していきたいと考えています。

そして、私たちが発信したエビデンスが他のフィットネスクラブにおいても利用されるとともに、他のフィットネスクラブからもエビデンスが発信され、フィットネスクラブが真の健康寿命延伸産業に発展していくことを期待しています。大手フィットネスクラブや会員管理をクラウドサービスで行っているところでは、すでに、かなりデータが蓄積されていることが、想定されます。それらを利用して多くのエビデンスが発信されることで、たくさんの人がフィットネスクラブを利用し、ひとりでも多くの人たちの健康寿命が延伸されることを願っています。

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