研究・業界情報

『健康産業を取り巻く社会的背景』
(株)プロフィットジャパン 菊賀信雅

厚生労働省は、健康日本21(第二次)における目標として「健康寿命の延伸」を掲げています。
民間フィットネスクラブは健康寿命延伸産業として位置付けられており、国民の健康寿命延伸に貢献しうる産業です。
しかしながら、2014年時点におけるフィットネスクラブ会員数はおよそ416万人であり、総人口に対する民間フィットネスクラブ加入率は3.3%にとどまっています。(IHRSA2014)
〔アメリカ5,410万人(17.4%),ドイツ908万人(11.0%) ,イギリス830万人(13.4%) 〕
フィットネスクラブ利用者が増加することは、健康寿命延伸産業の育成や国民の健康寿命の延伸につながります。

毎年、敬老の日に合わせて、65歳以上の高齢者の統計が発表されます。
毎年9月15日頃に発表され、65歳以上が3000万人を突破し3,511万人(27.7%)で、過去最高となったとの発表がありました。
総務省統計局からの人口推計が発表され、日本の人口が1億2,620万人となり、日本人は昨年より数十万人減少したとニュースで報じていました。私が注目したのはその中で、フィットネスの対象人口である15歳以上の
人口が、1億1000万人でそのうち40歳以上の人口が、7,720万人で、対象人口の69%を超えたという点です。
日本国民のフィットネスの対象者の7割が、40歳以上になっているということです。(表1)
国立社会保障・人口問題研究所では、将来に向けて下記のような推計をしており、50年後には、日本の人口は8674万人となり、15歳以下、生産人口(15~64歳)が約半分になり、65歳以上が40%に達すると推計しています。

また、これは(表2)大手のフィットネス施設の公表されている年齢構成の割合です。

表2をみても、フィットネスのお客様の平均年齢は、確実に上がっています。
年齢別会員構成表をみると、40歳以上の会員が2007年では、50~60%だったのに対し、2017年では、70~75%となっています。実に約7割以上が、40歳以上となり、クラブによっては、50歳以上が50%以上というところも、少なくありません。もちろんこれからはさらに高齢化が進み、平均年齢が上がることが予想されます。そうすると、今までのように、有酸素運動や筋力トレーニングを中心とした積極的に身体を動かすというプログラムだけではなく、身体を休めるというプログラムも不可欠となります。

お客様は大半が仕事をしています。会社に勤めている人、家で家事や育児、介護をしている人など様々な仕事を日々行っています。仕事は通常、行動(ACTION、ON)であり、身体を動かすか、頭を動かすかは別として、疲労を伴います。仕事が終わると休養(REST、OFF)となり、疲れた体を休めるための方法をとります。
20~30歳台の若い人は、この時間を積極的休養(Active Rest、積極的に体を動かし、汗を流しリフレッシュすること)に使うことも多いかもしれません。
しかし、40歳代より上の方は、大半が、消極的休養(Passive Rest、身体をリラックスさせ、静かに疲れが消えるのを待つ)に時間を使い、体調整え、次の行動(仕事)に備えます。
大手のフィットネスでは、最近、お風呂やジャグジーなどの水回りを充実せるところが増えています。中には露天風呂があり温泉をひいてスパ機能を充実させるところが増えているのも、そのせいだと思います。
図1.は、休養についての基本的な考え方を示しています。フィットネスクラブでのサービスの提供は、今は積極的休養の範囲が多いと思いますが、お客様の年齢構成の変化に伴い、消極的休養のプログラムをもっと充実させていかないといけません。少なくとも、各50%づつの割合か、40:60で、消極的な休養のアイテムやプログラムを増やした方がよいでしょう。

○これからのフィットネス施設について 「注目業態、今後伸びる業態の方向性や特徴」
社)フィットネス産業協会発表のフィットネス産業基礎データ2008〔2009年11月発刊〕によると
「注目業態、今後伸びる業態の方向性や特徴」の報告があり、「専門性」「疾病予防サービス」「パーソナル」
「リハビリ」「メディカル」「リラクゼーション」というキーワードが示されており、特にエリアの項目には
「低価格で利用でき、地域とのコミュニケーションの場としての位置づけとなる小規模施設」が理想ともありました。

さて、2009年に出された、注目業態、今後伸びる方向性や特徴について、5年後の2014年には、どうなった
でしょうか。ほぼ、予想通り、ダイエット専門のパーソナル指導で売っているライザップや、加圧トレーニングが、
伸びていたり、女性専用のカーブスや、スタジオプログラムとしてのホットヨガや、パーソナルジムも増えてきています。

また、経済産業省の統計では、フィットネスクラブの会員の年齢構成比の変化は、グラフ1のように、平成15年には、20歳台、30歳台が約5割だったものが、平成26年には、約3割となり、40歳以上が7割となっています。
グラフ1 フィットネス会員の年齢構成割合(%)の変化

(平成27年経済産業省、第3次産業活動指数と特定サービス産業動態統計)
これをみても、フィットネスのお客様の平均年齢は、確実に上がっています。これからはさらに高齢化が進み、平均年齢が上がることが予想されます。
最も多い年齢層が60歳台(30.3%)となり、50歳台18.1%、40歳台19.6%と約70%が、中高年であり、まさにシニアフィットネスの時代といってもいいかもしれません。上記の50年後の統計で、65歳以上の割合が今より、12%増える予測ですので、フィットネスの会員構成の中の4~5割が、60歳以上となるかもしれません。

シニア層の需要が高まる中で、フィットネスクラブでは介護予防の効果に着目したサービスが活発化しています。リハビリとフィットネスの融合を目指した機能訓練施設の開設、コンビニエンスストアと連携した健康管理サービスの実施、スポーツクラブ型のデイサービス、自治体の介護予防事業の受託、医療機関と連携したサービス等、シニア層を意識した数多くの取組が実施されています。

グラフ2

経済産業省の担当者は、「フィットネスクラブ」は「生活関連サービス業,娯楽業」という位置付けから、「健康産業」として、「医療,福祉」に近い存在になっているとも言えるのではないかと分析しており、 第3次産業活動指数(17年=100)で、「フィットネスクラブ」と「生活関連サービス業,娯楽業」の動向を比較してみると両者は全く異なる動きを示しており。(グラフ2)「フィットネスクラブ」は、景気感応度が低く、緩やかな上昇を続ける「医療,福祉」に近い動きを示しているとしています。

シニアの需要が増え介護予防を目的としたフィットネスとしては、有酸素運動や筋力トレーニングを中心とした積極的に身体を動かすというプログラムだけではなく、ラジオ体操などの軽運動や身体を休めるというプログラムも不可欠となります。
通常のフィットネスクラブでは、有酸素運動、筋力トレーニング、スイミングなどの、身体に負荷(Load)をかけることを中心に行います。各クラブでは、それぞれの種目について、負荷、回数、セット、時間、カロリー、頻度など詳細にお客様にアドバイスします。また、トレーニングが終わるとシャワーやお風呂、ジャグジー、サウナなどの施設(ハード)のサービス提供が中心で、トレーニング(Load)にあるような詳細なプログラムとして提供をしていません。
私は、各フィットネスクラブで差別化できるプログラムとして、L&Rメソッド をお勧めしています。L&Rメソッドとは、Load(負荷)&Recovery(回復、体調調整)のことです。
中高年者、低体力者については、Load(負荷)とRecovery(回復、体調調整)とをバランスよくプログラム化して提供しないと疲労過多になってしまいがちです。よって、Load のトレーニングの前後には、Recoverできるボディメンテナンスが不可欠です。今必要とされているのはRecovery Bodymaintenance です。

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