研究・業界情報

2016年9月に、第71回日本体力医学会大会が、盛岡市で行われました。その中の「現場の知見から公共の知識への昇華~ScienceでありArtでもある体力科学~」のシンポジウムで、『フィットネスクラブ経営で求められるエビデンスと研究を実施する際の問題点』について、シンポジストとして以下のような内容を発表いたしました。このことは、今後のフィットネス業界についても非常に重要な事だと思いますので、掲載させていただきます。

 

  • フィットネスクラブを取り巻く背景

・厚生労働省は、健康日本21(第二次)における目標として「健康寿命の延伸」を掲げている。

・民間フィットネスクラブは健康寿命延伸産業として位置付けられており、国民の健康寿命延伸に貢献しうる産業である。

・しかしながら、2014年時点におけるフィットネスクラブ会員数はおよそ416万人であり、総人口に対する民間フィットネスクラブ加入率は3.3%にとどまっている。(IHRSA2014)

〔アメリカ5,410万人(17.4%),ドイツ908万人(11.0%) ,イギリス830万人(13.4%) 〕

・フィットネスクラブ利用者が増加することは、健康寿命延伸産業の育成や国民の健康寿命の延伸につながる可能性がある。

・フィットネスクラブの利用者を増加させるためには、入口を広げ(入会者を増やす)出口を狭める(退会者を減らす)ことが必要である。

・民間フィットネスクラブにおいて新たにフィットネスクラブに入会したにもかかわらず、約4割の人が、1年間以内に退会(早期退会)することが報告されている。〔(社)日本フィットネス産業協会2008〕

・フィットネスクラブが会員の健康寿命の延伸に貢献していくためには、フィットネスクラブにおける早期退会者を減少させ、結果として加入者率(prevalence)を高めることが重要だと考えられる。

 

  • フィットネスクラブの現状

・フィットネスクラブの入会者を増やすために広告を行い、来館を促す。

・広告により来館を促し、見学や体験者をしていただき、フィットネスの必要性を訴求する。

・入会を勧めて、会員になっていただく。

・会員として継続的な利用をしていただき、健康効果を感じていただいたり、クラブライフをエンジョイしていただくためのプログラムやイベントを数多く実施する。

・フィットネスクラブのスタッフは、営業活動としての会員募集と継続していただく方法に日々励んでいる。

  • 国内のフィットネスクラブに関する先行研究

私たちの知る範囲での関連するフィットネスクラブについての先行研究は以下のようなものがあります。

(原著論文)

・地理情報システム を応用 した商業スポーツクラブの商圏分析、スポーツ産 業 学 研 究 1996.

・状況的学習論か らみた商業スポーツ施設におけるスポーツ指導サービス、スポーツ産 業 学 研 究1999.

・フィッ トネスクラブにおける参加率の距離減衰効果に関する研究、スポーツ産 業 学 研 究 2002.

・フィットネスクラブにおける会員の顧客満足と会員継続に関する縦断的事例分析、体育・スポーツ経営学研究, 2006.

・スポーツクラブにおける中高年女性の運動継続の規定要因に関する研究、スポーツ科学研究2008.

・女性専用フィットネスクラブ選択へ 影響を及ぼす要因の質的研究、スポーツマネジメント研究, 2009

・民間スポーツ・フィットネスクラブに経営における顧客苦情マネジメント分析、体育・スポーツ経営学研究 2010.

 

フィットネスクラブの入会者を増やすためのエビデンス、会員継続に関するエビデンス等、加入率を上げ、継続していただくためのエビデンスがとして不足していると考えています。

 

そこで、疫学的な研究手法を取り入れて、フィットネスクラブの利用者を増やす取り組みをすることとしました。新規加入者を増やし、継続していただくためにはどのようにしたらよいかを調べるための研究を3年前にスタートしました。

 

図1

 

フィットネスクラブの利用者を増加させるためには、入口を広げ出口を狭めることが必要だと考えています。そして、そのための研究として、3つのテーマを掲げて疫学研究を実施しています。(図1)

まず最初に、どんな人がフィットネスクラブに入会するのか? を知るために横断研究を実施しました。

すでに研究が終了し、現在、原著論文として日本スポーツ産業学研究に投稿し、2017年1月に掲載予定です。

 

次のテーマは、縦断研究、つまり、コホート研究によって明らかにしていこうと考えているテーマで、どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?です。

現在、入会者の追跡を実施している最中です。

最後のテーマについては、介入研究、ランダム化比較試験によって明らかにしていこうと考えているテーマで、どのような継続プログラムが退会率を下げるか?です。

コホート研究の結果を受けて、どのような介入を実施するかを検討していこうと考えています。

本研究はすでに昨年の6月20、21日に中京大学で開催されました第18回日本運動疫学会で発表させていただきました。

図2

その研究については、図2のようなデザインで実施しました。

フィットネスクラブ経験と余暇に求める過ごし方についての関係を調べて、報告いたしました。

図3

 

次に、現在クラブで実施している、「どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?」に関するコホート研究をご紹介します。(図3)

早期退会とは、入会後1年以内の退会のことです。

早期退会はフィットネスクラブ業界においてとても重要な課題と考えられています。

フィットネスクラブに入会した約40~50%の人が早期退会するというデータが報告されています。

したがって、早期退会をいかに減らすかが、クラブ運営にとって重要な課題になっています。

しかしながら、どのような人が早期退会するかについてはフィットネス業界において全く把握できていない状況です。このことを調べることは、とても有用で、あらかじめどういう特徴の人が早期退会するかが分かれば、入会時にアンケートを実施して、その特徴と合致する人には、手厚くサポートして早期退会させないということが可能になります。

次号に続く。

 

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