研究・業界情報

原著論文:フィットネスクラブ利用経験と余暇活動に求めるベネフィットに対する意識の関連

フィットネス関連の原著論文は5年ぶりにアクセプトされました。
この論文がフィットネスクラブの発展に貢献して、世の中の人々の健康に寄与できることを願っております。 菊賀信雅


2017年1月1日発行の日本スポーツ産業学会が発行する学会誌、日本スポーツ産業学研究に

『フィットネスクラブ利用経験と余暇活動に求めるベネフィットに対する意識の関連:日本人成人を対象にした横断研究』が、原著論文としてアクセプトされ、巻頭に掲載していただきました。

 

この研究は疫学的な研究手法を取り入れて、新規加入者を増やし、継続していただくためにはどのようにしたらよいかを調べるための研究の3つのステップのうちの最初のステップとして、スタートしました。図⒈

図1.

 

そのうちのPJS1(プロフィットジャパンスタディ1)として、「どんな人がフィットネスに入会するか」を明らかにする研究として、『フィットネスクラブ利用経験と余暇活動に求めるベネフィットに対する意識の関連:日本人成人を対象にした横断研究』が、行われました。

この研究の目的は、余暇に求めるベネフィット要因(一般の人は余暇の時間をどのように過ごしたいと思っているか)を調査し、そのことと、フィットネスクラブの利用経験の有無との関連を検討することでした。

方法は、(一社)日本フィットネス産業協会が2013年3月に実施したインターネット調査

「フィットネスクラブの価値が正しく生活者に伝わるようにする為の調査研究」データを同協会の承認を得て利用させていただきました。

研究デザインは、横断研究で、余暇に求める過ごし方とフィットネスの利用経験の有無についての関連を

調査しました。調査項目は、図2のとおりです。

 

図2

 

図3は、

余暇に求める過ごし方については、「リラックスして気楽にすること」を求めている人の割合が最も多いという結果でした。また、グラフに示すような項目が上位5位にはいってきました。

 

図3

 

図4は、ロジスティック回帰分析という方法によって解析した結果になります。

お互いの項目の影響を調整したところ、先ほどの集計で1位だった「リラックスして気楽にすること」については、「リラックスして気楽にすること」を求めないと答えた人に対して、求めると答えた人の「フィットネスクラブの利用経験あり」のオッズ比は、1.3と、やや高い傾向にありましたが、統計的に有意ではありませんでした。一方で、先ほどの集計で上位5位にも入らなかった「健康維持のために活動すること」については、求めないと答えた人に対して、求めると答えた人のオッズ比は統計的に有意に高く約2.18倍の値でした。「健康維持のために活動すること」 〔オッズ比2.18(P < 0.01)〕」

また、「人と一緒に活動すること〔オッズ比1.36(P < 0.05)〕」という項目については、フィットネスクラブ経験と有意な関連がありました。

さらに、女性のみ「日々の決まった活動に大きな変化をもたらす活動」〔オッズ比1.69(P < 0.05)〕」が、有意な関連が有りました。

これらのことから、フィットネスクラブを利用したことがある人はフィットネスクラブに「健康」や「人との関わり」というベネフィットを期待している可能性があることを示唆しており、フィットネスクラブ事業の経営体は「健康」や「人との関わり」を積極的に提供すること、あるいはこれらのベネフィットを提供していることを十分に宣伝することが、利用を増やすことに資する可能性があると思われます。

また女性が、日常の生活とは異なる変化をフィットネスに求めている可能性があり、非日常をフィットネスクラブで演出することも効果的かもしれないと思っています。

これらの結果を、今後のクラブ入会者の増加に向けたマーケティングに活かしていきたいと考えています。

 

図4

 

今回の論文は、原著論文として掲載いただきました。

原著論文とは、独創的な内容で、著者自身が新しい発見して、それについての報告を学術誌の記事として掲載されたものが原著論文です。査読(その学術誌掲載にふさわしいかどうか、基準に達しているかを査定する)があり、その分野の専門家が内容を詳しく審査して、必要に応じて修正、再解析等のやり取りが何度かあるのが通常です。それで認められれば、アクセプトされ、原著論文として出版されることになります。該当分野の有識者によってその成果や有効性が認められた、という事になります。原著論文以外に、研究ノート、レビュー論文(総説)、学会抄録(会議録)などがあります。物事の真偽や、その考え方が正しいかどうかを知るためのエビデンス(科学的根拠)としては、最もよりどころにされるのが、原著論文です。

 

PJS1(プロフィットジャパンスタディ1)として、「どんな人がフィットネスに入会するか」を明らかにされた後、次の第二のテーマは、縦断的な研究、つまり、コホート研究によって明らかにしていこうと考えている、「どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?」です。〔PJS2〕

現在、PJS2として、「どんな人がフィットネスクラブを早期退会するか?」を調査研究中です。早期退会とは、入会後1年以内の退会のことです。現在まで、約20クラブ、約3,000人の新規会員が入会し、その人の身体的、社会的、心理的要因を調べ、1年以内で辞めた人と、続いた人の差の解析を行っております。

これが分かると、入会時点で、個別に辞める可能性を探ることができ、現場でとても役に立つ資料となると思います。今年の5月に、アメリカのデンバーで開かれるアメリカスポーツ医学会(ACSM)で、発表いたします。

 

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